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 なにかが間違っている。












 なにがどうなって、こうなっちまったんだろう。












 訳わからん。













 なんで俺が、ちまい奴の面倒を見なきゃならんのだ。












 なにかが間違っている。













































「なにを考えておる」
「……お前の事」
「ほう……?」






 正直、頭を抱えるしかない。












 偉そうな口を聞く、俺の側に転がっているこのちまい狐。

 そいつが以前『伝説の妖狐』として名を馳せていたなんて、誰が信じられる?


















 優美ささえ感じられた九尾は面影すらなく、見た目はただの仔狐だ。

 しかも一本尻尾の。

 銀毛赤目の、威厳さえ感じられた姿はどこへやら。















 聞いた話では、なんの因果か知らんが妖力を封じられてちまい姿になったらしい。
 陰陽師か妖術師にやられたか……
 当の本人(いや、本狐か?)が詳しく覚えていないというのだから聞きようがない。






 もっとも、覚えていないという話も嘘か真かわかったものじゃない。
 そして古い友人である俺を頼ってきた、という訳だ。
 同じ銀毛のよしみ、って言やそうかもしれない。
 俺の目は金だが。












「我の、なにを考えていたというのだ?」



「……ちんまくなっても話し方変わらねぇなーって思ってな」












 違う事を考えてはいたが、それを億尾にも出さずに答える。
 バレたら後で何を言われるかわかったもんじゃないが。












「姿が変わったとて、我が我である事には変わりはない。本質はそうそう変わらんよ」

「まあ、そうだけどな」

「……だが、なにか言いたそうだな?」


















「ああ……その姿でその喋り方は、えらく違和感あると思ってな」


















 ――思わず、だ。

 思わず本音が口をついて出てきた。









 途端に、奴の眼差しが剣呑なものへ変貌した。

「ほほう……大半は封じられたとはいえ、我が力、そなたには劣らんぞ」


















 背後に、炎が見えた気がした。



















































 ……えらい目に遭った。












 奴の朱金の炎は、妖力を抑えられているとは思えないほどだった。
 それには素直に感嘆する。






 だが、俺をその炎に巻き込もうとするのはいただけん。
 危うく尾のひとつが焦げそうになったぞ。


















「お前なぁ……」

「口は災いの元、だ。そなたが悪い」












 俺がなにか言おうとしても、奴がたたみかけるように先手を打ってくる。
 頭が上がらないっつーか、力関係がはっきりしているっつーか。












「っかしいなぁ……」

 再度、口に出たぼやき。
 奴は僅かばかり首を傾げて俺を見た。
 ……身体は仔狐なもんだから、仕草だけはやけに愛らしい。

「なにがだ?」
















「こんなはずじゃ、こんなはずじゃなかったはずなんだがなぁ……」
「では、どんなつもりだったと言うのだ」
「…………ぐっ」















 冷静な切り返しに、思わず言葉に詰まる。
 記憶と喋り方が残っているだけで、どうしてこうも扱いにくいんだ。









 ――『伝説の妖狐』は伊達ではない、という事か。

 改めて認識した事実に、眩暈がしそうだった。



















































 どうすれば、奴は元の姿に戻るのだろうか。









 俺もそれなりに永い時を生きている。
 あいつに比べればまだ短いだろうが、他の妖狐とは年季が違う。





















 だからこそ疑問だった。

 なぜ幼い仔狐の姿になったのか。

 一体誰に妖力を封じられたというのか。




















「なあ……」

「なんだ?」















「お前、元の姿に戻りたいとは思わないのか? そもそも誰に力を封じられたんだ?」












 奴は軽く前足で地面をこする。
 ためらいがちな時の癖だ。












「戻りたいと、思わないわけはないだろう。
 だが……正直、相手がどのような人間であったかは思い出せぬのだ」

「……まあ、なにかふとしたきっかけで元に戻らないとも限らないしな」





















 顔を伏せるような奴を見ていられなくて、俺は視線を彷徨わせた。









 もうじき、宵の月が見える空へと。
























「それまでは面倒見てやるよ、煌怜(こうりょう)」



















































 月と太陽は巡り。





















 空と影は虚ろになろうとも。
























 この時だけは。
























 この記憶だけは。




















   End.


あとがき

構想30分くらい、執筆トータルでおよそ2時間と少し(推敲・改稿込)
キーワードは、生意気、振り回され、封印、小さな狐。
初期構想とはまた別にまとまったお話です。
他は「人との関わり」が根底にありますが、これは「狐同士」です。
名前の出てこなかった大きな狐の方にも、一応名前はついています。
出てくるかどうかは、今後次第という事で……


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