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 まだ薄闇の支配する空間。
 空調が程よく効いた室内に聞こえるのは、規則正しい寝息。
 ただいまの時刻、午前五時。
 朝というには、まだ少し早い時間かもしれない。

ピリリリリ、ピリリリリ……

 響く、無機質な電子音。
 ベッドに寝転がっていた人物は、億劫そうに手を伸ばす。
 携帯端末に表示された時間と、着信相手の名前。
 液晶ディスプレイの明かりを頼りにそれを確認すると、ようやく通話キーを押した。

「はい、橘……」
『おはよう、圭樹。ご所望のモーニングコールよ』

 聞こえてくるのは少し高めのトーンの声。
 部屋の主、橘圭樹(たちばな・けいじゅ)の職場の同僚であり恋人でもある藤沢瑞穂(ふじさわ・みずほ)だ。

「ああ、瑞穂か……ありがとう。君は夜勤明け?」

 欠伸を噛み殺すように身体を起こし、のろのろとベッドから這い出る。
 低血圧ゆえなのか橘は朝に滅法弱く、日勤の際には瑞穂からの電話だけが頼りという状態だった。
 アラームを設定しても通用せず、ただ恋人の声だけに反応する。

『いいえ、私はこれから任務なの。電話入れる時間ができて良かったわ』
「任務……? こんな時間から?」
『勤務交代までまだ時間があるし……報せが入ってしまったんだから行くしかないわ』
「そっか……お疲れ様。頑張れ、としか言えないけれど」
『ありがとう。それで……それでね、圭樹』

 橘と瑞穂の勤務する職場とは、特務退魔機関フォル・ルーチェス……通称F.L.と呼ばれる組織だ。
 能力者の保護と権利の獲得、また悪しき能力から人々を守る事を掲げている。
 二人はAクラスの能力者であり、優れた退魔官でもあった。

「それで……どうした?」

 珍しく言い淀むような口調の瑞穂に、橘は優しく問い掛けた。
 少しばかり思考は起ききっていないが恋人を気遣う事は忘れない。

『あのね、圭樹……』
「うん、なんだい?」
『こんな時に、こんな電話で言う事じゃないと思うんだけど……』

 しばし訪れる沈黙。
 時計の秒針の音だけが微かに響く。

『圭樹……私たち、別れましょう』
「…………なん、だって?」

 それは、まさに青天の霹靂だった。
 三年近くも付き合ってきて、そろそろ本気で結婚も考えていた頃だった。
 それなのに。
 突然とでも言うべき、この仕打ち。

「どう…して……こんな、急に?」

 やっと喉の奥から搾り出す声。
 携帯端末を持つ手が、微かに震えている。

『急にじゃないわ……ずっと考えていたの』
「ずっとって、いつから……」
『圭樹が“暁の守護者”の称号を得た頃から、かしら……』

 F.L.所属の退魔官の中でも、特に優れた能力及び戦闘力を持った者に贈られる“暁の守護者”という称号。
 それを得る事はすなわち、機関高官への道を約束されたも同然だった。

『なんだか遠くへ行っちゃったね、圭樹……私なんかじゃ釣り合わないわ』
「ちょっ……何を言い出すんだ、瑞穂!」
『言ったでしょう、ずっと考えていたって』

 聞こえる、少し寂しげな声。
 二人を分かつ距離が、とても遠く感じられた。
 それと同時に恨まずにはいられなかった。

『あなたといた時間、楽しかった……ありがとう、圭樹。さよなら……』

プツッ――ツー、ツー、ツー……

「嘘だろ……瑞穂……」

 絆は、離れてしまった。
 ずっと求めいた存在は、去ってしまった。
 絶望と虚無が心に飛来した時。
 人が狂気に目覚めるのは、こんな瞬間かもしれない。

「――瑞穂、愛しているよ。君は、俺だけのものだ」




















   End.


あとがき

えー、今回は特別verのお題バトルです。
『お題バトルinシュヴェーレン@早朝編』
全員がシュヴェーレン関係者という、なんとも楽しい状況でした(笑)
テーマは「朝」、お題は「寝起き」「電話」「起爆剤」「暁」
構想は書く前にちょこっと浮かび、あとは脊髄反射のままに。
少ないKBもあって書き上がるまで40分ほどでした。
もともと失恋の話を書こうと思っていたんですが、気が付けば狂気への幕引きな結末に。
……どこでどうなったんだ、これ。
なんとなくの脊髄反射恐るべし。
「なんとなくでも悲恋を書ける人」と言われて、嬉しいんだか悲しいんだか……
そこそこ好評で良かったです。
みんなダークなのが好きなのね(苦笑)
今回、掲載をひっじょーに迷いました。
内容的にも少し疑問が残っており、なによりイメージに合う壁紙がなかなか見つからなくて。
もしかしたら掲載を降ろすかもしれないです。
珍しくそう思う作風であり、内容でした。

※11/7追記
壁紙差し替えました。
更新前に数人の方に少し意見を聞いたのですが、こちらの方がイメージに合うとか。
自分なりにも納得です。
でも掲載を降ろすかどうかは、また別の問題(苦笑)

※シュヴェーレンとは
『特務機関シュヴェーレン育成課』のこと。
私が運営管理しているPBCサイトです。

同一お題参加者様
久能コウキさん
伏河竹比呂さん
無我夢中さん


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