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20××年。
世界はまるでおとぎ話や空想の世界のように様変わりしてしまった。
人に顕れた異能の力。
神話や小説などで語られてきたような、異形の魔物。
人類は戦うのか。
それとも滅びるのか。
戦う術を持つ者は、多くの哀しみを背負っていた。
「Sanctus, Sanctus, Sanctus...」
風が吹き、寂しげに荒んだ廃墟に響く声。
それは落ち着いたトーンの男の声だった。
ヘブライ語で聖句を紡ぎ、胸に下げた銀の十字架に手を添える。
カトリックの聖句と胸の十字架から神父のようにも思えるが、男は僧衣を身にまとっていなかった。
漆黒の髪と双眸と合わせたかのような、闇色のスーツ。
ネクタイも同色だが、不思議と喪服のように見えない。
男の眼前には山羊頭の毛むくじゃらの二足歩行の生物が立っていた。
その手には鈍く光る無骨な鎌が握られている。
「聖句ナド、我ニハ何ノ意味モ成サヌ……」
地の底から響くような、低い声。
山羊頭の魔物の目が、血のような赤に輝く。
男は、十字架に添えていた手をす、と払った。
「お前のための聖句ではない……お前の血で汚されるこの地のためだ」
「ホザケ、若造ガ! 貴様ナドニ何ガデキルト言ウノダ!」
力任せに振り下ろされる鎌。
それは恐ろしいほどの唸りを上げて男に襲い掛かる。
しかし男は微動だにせず、祈りを紡ぐ。
「Credo in unum Deum, Patrem omnipotentem, factorrem coeli e terrae,
visibilium omnium et invisibilium. Credo in unum Dominum Jesum Christum,
Filium Dei unigenitum.」
その手に生まれるのは、銀に輝く大鎌。
大きく血の十字架が染め抜かれたそれは、ある種高潔で、ある種畏怖を感じさせるものだった。
「私と対峙した己が命運を嘆くがいい……教皇庁聖務省特務執行官、榊皇惟(さかき・かむい)。参る」
風すら凪がずに振り上げられる銀の大鎌は、鋭い音を立てて魔物の鎌と競り合う。
榊はさほど力を込めている様子もないのに、交差した鎌は徐々に押し上げられていく。
「貴様ッ、モシヤ……!」
「その慢心が、お前の敗因だ」
静かな声。
榊の大鎌が完全に振り上げられると、山羊頭の魔物は数歩たたらを踏む。
しかし、それだけで充分だった。
横に薙いだ大鎌の刃が魔物の身体を捉える。
まるで紙でも切るかのように、その身は鮮やかに切り裂かれていった。
「我らは信ず、唯一の主、神の御一人子を。我らは信ず、唯一の神、全能の父、天と地、見ゆるもの、見えざるものの全ての作り主を……Amen.」
聞こえる、断末魔の声。
それにすら興味はないと言いたげに榊は踵を返した。
「神の箱庭……世界の窓。皮肉ですね」
榊は己の右手を空にかざした。
雲のほとんどない、抜けるような青空。
スーツの袖口から覗いた手首に、ちらりと十字の痣が見えた。
「空はこんなにも澄み、蒼いというのに……私の手は血塗られている」
ぐっと拳を握ると、静かにその手を下ろす。
「Pleni sunt caeli et terra tuagloria tua...天と地は、父の栄光に満ち溢れる」
呟き漏れた聖句は、誰に対するものか。
安らぎの微睡みは、まだ訪れない……
End.
あとがき
とうとう大台です。
10回目のお題バトルと相成りました。
9回目のバトルの更新作業中に突如開催決定に……
巻き込まれた方々、感謝です(平伏)
テーマは「青空」、お題は「昼下がり」「皮肉なほど青い」「まどろみ」「窓」
構想は書く前に少し浮かび、その後はお約束の脊髄反射のままに。
だいたい50分くらいで書き上げました。
澄んだ青空と血生臭さの対比を書きたいと思っていたら。
ごめんなさい。
シュヴェーレンのNPCを引っ張ってくる結果となってしまいました(汗)
現代っぽいですが、一応近未来です。
シュヴェーレンの世界観を知らない方でも大丈夫なように書いたつもりなんですが……
実際のところはどうなんでしょう。
意見求む。
彼が普段見せる事のない一面を書きたくて。
少し戦闘も書きたくて。
その結果、リライトしたいものが出来上がって。
機会がれば焼き直したいものです、はい。
個人的に、この「漆黒の聖見者」はチャイさんへ捧げます。
今後ともうちの皇惟をよろしくお願いします(ぺこり)
同一お題参加者様
久能コウキさん
月葵さん
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