見上げた空は、冬の空気で冴え渡っていた。
 澄み切った夜空は雲ひとつなく、星の輝きが見える。
 南に並ぶ三ツ星は、あれはなんだったか……
 思い出せない星座の名前。
 私は白く染まった吐息を胸から吐き出す。
 




 足元に転がるのは、かつて人だったモノ。
 誰かが戯れに異端の種を埋め込んだモノ。
 満たされる事を知らない、衝動だけを身に宿す。
 かつては人であり、今は人でなく。
 夜を渡る一族の、もっとも下級の下僕(サーバント)。
 渇きを潤す欲求のみに蠢くモノ。

「つまらない……空はこんなにも冴えているというのに」

 この、人だったモノに誰が種を埋め込んだかなんて私には関係なかった。
 どうでもいい事だった。
 衝動と欲求の虜に囚われてしまった下僕。
 それは思考判断さえも鈍らせてしまった。
 上位種である、私に対して牙を剥いてきたのだから。

「つまらない……」

 私はもう一度、呟いた。
 言葉と共に白い息が夜気に散っていく。
 足元の塊が、もぞりと動いた。
 埋め込まれた種は、私は砕く事はなかった。
 自分でもなぜ砕かなかったのかはわからない。
 どこにでもるような風貌の男。
 それなのに。
 なにが私の爪と牙を鈍らせたのか。

「――ここ、は……」
「遅い目覚めね……」

 私の言葉に、下僕の男は弾かれたように顔を上げた。
 目にかかるほど長めの前髪、その奥に隠れるような双眸。
 そのどちらも、夜空のような闇色をしていた。

「あなたは……っ」

 男が息を呑むのがわかる。
 本能的に、その埋め込まれた種が私の存在を察知しているのだろう。
 自らが犯した罪をもその胸に同時に刻み込むように。
 私は艶然と微笑み、自らを告げた。

「お前が手をかけようとしたのは、源流六族が二の長……ルーツィエ・エーデルハウト」
「蒼炎姫《アスール=エイデス》、エーデルハウトの銀の姫……」

 男は一挙動で身体を起こすと、そのまま膝をついた。
 己が衝動のまま相手にしようとしたのは、まぎれもなく私だったのだ。

「誠に申し訳ございません……此度の無礼、我が生命にかえましても……」
「お前の命で贖う、という言葉は聞けなくてよ」

 私が傷つけた首の傷痕はもう消えようとしている。
 ためらいは確かに生まれたけれど、かといって咄嗟に加減などしていない。
 浅いと言い難い傷。
 その治癒の早さ。

「……お前、名は?」
「隼人(はやと)と、呼ばれておりました……」

 私はもう一度、空を仰ぎ見る。
 並んだ三ツ星は西へと傾き、まるで太陽のような満月が東から空を臨んでいた。

「明けない夜はない……けれど皮肉ね、今夜は」
「姫……?」
「じきに夜明けだというのに……月が太陽のように昇ってきたわ」

 吐息はずっと白い。
 月の軌道をなぞるように、数時間後には日が昇るだろう。
 私に太陽の光は関係ないけれど、隼人という名のこの男にはそうもいくまい。

「いらっしゃい……お前の罪は、おまえ自身で贖いなさい」
「我が生命、我が血に賭けましても」

 それは、月が見守った契約。
 私は隼人のしなやかな首筋に唇を寄せた――




















   End.


あとがき

2005年最初の、お題バトルです。
お正月の昼間に、なぜだか突如始まりました(笑)
テーマは「冬」、お題は「純白」「オリオン座」「吐息」「日の出」
45分勝負でした。
構想はやっぱり書きながらで、時間ほぼ全部使用で書き上げ。
季節が冬というだけで、元旦バトルなのに時節感なし。
現代オカルトというか、ここ最近お気に入りの吸血鬼モノになりました。
大晦日バトル同様に、やっぱりひねくれてますね(苦笑)
お題の「純白」と「日の出」はちょっと反則ちっくに使用してます。
「オリオン座」も明確な単語出さなかったんですけどね。
銀のルーツィエと隼人の話は、実は以前から構想を練っていた物の1つです。
過去の因縁と、出逢いからその後の二人の関係。
機会があればちょっと書いてみたいかも、です。

しかし……年明け早々オカルト物ですか。
なんだか今年の私を暗示しているような作品ですね(苦笑)

同一お題参加者様
久能コウキさん
ねこK・Tさん
伏河竹比呂さん


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