暗い部屋に響く雨音。
強弱、緩急。
緩やかに、そして時折強く。
窓を叩く雨の音も、私の心には染み入ってこない。
心は、乾いたまま――
昏い空の色。
まるで泣き出したかのように、小さな雫が落ちてくる。
明かりも灯していない部屋には闇色が忍び寄り、雫は窓を叩く。
私はベッドから躯を起こすとシーツを胸元まで引き上げ、近くに散らばったままのガウンに手を伸ばした。
その伸ばした手を、気怠げに掴むのは大きな手。
ところどころ節くれ立って、少しざらついた指先。
「――起きていたのか」
「また雨よ……まるで空が泣いているようね」
「お前の代わりに、か? 月香(つきか)」
傍らに寝転び、手を取った男が私の名を呼んだ。
耳に心地良い声。
幾夜肌を重ねた相手だろう。
幾度享楽の声を、責め苦の声を聞いた相手だろう。
なのに、思い出せない。
この男の名が。
「どんな苦痛を与えようと、どんな悲しみを与えようと、お前は決して涙を見せはしない。頑なに心を閉ざしているかのように、な」
男は私を引き寄せ、その腕の中に抱いた。
抱き締めるのとは逆の手の指が、私の肩に、背に、ゆっくりと触れていく。
「この柔肌には確かな血が流れているというのに……お前は氷のようだよ」
首筋を撫で、顎を軽く持ち上げる。
男の漆黒の双眸が、真っ直ぐと私を見つめていた。
どこまでも深い闇のような、輝く黒曜石のような、そんな色だった。
「熱くなる躯とは裏腹に、冷たくなっていく心と感情……私は人形なのかしらね」
「――そんな表情(かお)をさせたいわけじゃない」
自虐的に笑ったのだろうか。
男は私の頬に手を添えると、きつく抱き締めたまま目蓋にキスを降らせた。
抱き寄せられた腰は、男の熱くたぎるものを確かに感じ取っていた。
私もまた、男の躯へと触れていく。
甘い痛み。
囁く吐息。
なぜ、私を抱くの……
なぜ、一緒にいるの……
あなたは誰なの……
微かに洩らした声はとても切なくて。
あなたの声を、表情をもっと感じていたくて。
躯は確かに触れ合っているのに。
心はどうしてこんなにも冷めていて、乾いているのだろう。
彼の背に残された傷痕。
それが私の想いをひどく揺さぶる。
傷痕に爪を這わせ、舌を這わせる。
「あなたのすべてを……」
「お前のすべてを……」
紡がれる言葉は、確かに同じ。
けれどその内に秘められる想いまでも同じなのか。
「私に、思い出させて……あなたの事を、すべてを」
肌を伝う雫が、私の心を潤すように。
熱く果てた躯を癒すように。
声は、雨音にかき消された――
End.
あとがき
またもや、お久し振りなお題バトルです。
ここ最近は月イチで参加できればいいペースのようです(ほろり)
そんなこんなで、3月に入ってから初のバトルです。
前回からかれこれ一ヶ月以上経ってます。
もう3月も下旬だなんて事は気にしないで、れっつばとるでした。
テーマは「あめ」、お題は「甘い」「冷たい」「そら」「かたい」「ちいさい」から任意で4つ以上。
一応全部使用しました。
「はじめまして」な方がいらっしゃったので、何を書こうか迷っていたんですけれど……
一体なにが私の思考に起こったの!?
スタート前の構想では「泡沫月下」断章の予定でした。
登場人物一覧に名を連ねていない某人物を書こうと思っていたので。
ですが。
書きながら構想を固め、執筆開始から10分が経過した頃。
……なんですか、この微妙にエロテイストなお話は!?
その後勢いに任せて30分で書き上げ、最短記録タイに。
なんか嬉しくなーい(涙)
いただいた感想では、表現などの艶やかさがいいとか、大人のほろ苦さがあるとか、前後が気になる! とか。
ありがたい限りです。
書き上がった後に語り手である女性の名前を出さなくても良かったかなー、なんて思ってました。
機会があれば前後を付属させてリライトしてみたいです。
ええ、R指定の入らない範囲で(笑)
同一お題参加者様
JINROさん
siganeさん
空也さん
シマゴンスケさん
貴さん
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