酒の席で誰かを口説く人は多いらしい。
 それには男も女も関係ないとか。
 アルコールの力が理性のタガを外してしまうのだろうか。
 私は幾度となくそのような場面を見てきたが……
 見てきたが。
 まさか自分が口説かれる立場になるとは思わなかった。
 しかも、相手が自分の部下とは。

「部長ー、氷崎部長ー。聞いてるんですかー?」
「……まったく、しつこいわね」

 今日は営業部の納会。
 日頃の労を労おうと、営業部部長の私、氷崎綾香(ひさき・あやか)が主催したもの。
 そこまでは良かった。
 ランクの高い店では肩肘張ってしまうだろうと、彼らにとって馴染み深いであろう店を選んだのが間違っていたのか。
 それとも飲み放題のコース選択が悪かったのか。
 複数の種類の酒を飲んだせいなのか悪酔いする男子社員が続出。
 そして口説きに走る者多数。
 急性アルコール中毒にでもならなければいいけど、と私は少し頭痛を覚えた。

「俺、ずーっと部長の事好きだったんですよ。こういう機会でもなきゃ言えないじゃないですか」
「アルコールの力を借りなきゃ言えないような事かしら」

 溜息をもらしつつ、私は席を立つ。
 宴もたけなわ、といった雰囲気で私も酒気に当たり過ぎたようだ。
 解禁だという事でボジョレー・ヌーボーを部署の者たちで空け過ぎた。
 私も何杯グラスを重ねた事か。
 このままでは酔いつぶれる者も出てくるだろう。
 そうなる前にタクシーの何台かも呼んでおかなくては。
 携帯を手に宴席から離れた私を、部下はついてくる。
 赤ら顔、落ち着かない呼吸。

「どこいくんですかー」
「……邪魔しないで」

 手早く携帯のメモリーからタクシー会社の番号を呼び出す。
 宴会の状況から判断して、タクシーの予約時間を逆算する。
 聞こえてくるコール音。
 ……そしてそれを邪魔する部下の声。

「どこに電話してるんですかー。いいじゃないですか、電話なんてー」

 自分でも怒りがこみあげてくるのがわかる。
 我が部下ながら、どこまでも情けない。
 私は一度、携帯の通話ボタンを切った。

「……あなたね」
「お前もいい加減にしろよな」

 私が言いかけたその時。
 聞こえた声と、続く水音。

「あら……支倉」
「モテる女は辛いですね、氷崎部長」
「この状況が? 冗談はよしてちょうだい」

 酔いどれ男へグラスに入っていた冷水をかけたのは、やはり部下の支倉和樹(はせくら・かずき)だった。
 結構飲んでいたはずなのに、顔色が変わっていない。
 呂律もまわっており、思考もはっきりしているようだ。
 毒づくほどに。

「こいつは俺がなんとかしておきますよ。部長は電話の途中だったんでしょう?」
「そうしてちょうだい。それから……ありがとう、支倉」

 私はそれだけ言い、さっさと歩き出す。
 一瞬呆気にとられた支倉の表情。
 それを思い返すと、自然と笑みがこぼれてきた。




















   End.


あとがき

今回、ある意味ちょっと特別verなお題バトルです。
全員A&C加入者にして、シュヴェーレン関係者。
コウキさん悔しがりそうだな……(苦笑)
テーマは「酒」、お題は「中毒」「口説く」「赤」「宴会」
構想は書きながらで、仕上げるまでだいたい50分くらいかな。
お題バトル9本目にして、ようやく現代物が書けました!
長かった……(ほろり)
登場人物が流用されているのは、まあご愛嬌っていう事で勘弁してください。
今回4人中、未成年にお酒ダメな人がいて、それなのにテーマが「酒」
ごめんなさい、テーマ出したの私です(平伏)
このお話、実話が何割か入っています。
どのあたりの事かは、まあご想像にお任せするとして。
全員現代物で、なかなか楽しゅうございました。

同一お題参加者様
伏河竹比呂さん
柊木冬さん
無我夢中さん


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