妖精たちが踊った輪の後にできるという、妖精の輪<フェアリー・テイル>

そこをくぐると、妖精たちの国へ行けるという

古い古い、言い伝え……










「あなたは、信じる?」
「妖精の輪<フェアリー・テイル>のこと? それとも妖精たちのこと?」

 大学のカフェテリアで偶然隣り合わせた女性から、不意に話を持ちかけられた。
 留学中のアイルランド。
 妖精や精霊たちの神話、ケルトの風習が今もなお色濃く残る土地。
 蜂蜜色の長い髪に紺碧の眼差し。
 透明感のある白い肌がそれらを特に際立たせていて、あたしには彼女の方が現実離れしているような風貌に見えてしまった。
 それくらい目を惹いて、それくらい儚い印象。

「この土地には、いろんな伝承が残っているわ。妖精の国へ行った人間のこと、人間に恋した精霊のこと……」
「精霊の恋物語って、意外に多くない? いろんな国の文学で見かけるくらい」
「そりゃあ、そういう存在ってアイルランドだけのお家芸じゃないもの」

 小さく笑みをこぼした彼女は、女のあたしから見ても見惚れるくらいに綺麗だった。
 ……そういえば、あたしは彼女の名前を知らない。
 たまたま隣の席になった事がきっかけで、話し出したに過ぎない。
 大学も広くて学部が多いから、まったく見知らぬ人もいたりする。

「イギリスやドイツ……ヨーロッパでは呼び方こそ違うけれど、似たような妖精や精霊って多いのよ」
「じゃあ、あたしの国の『座敷童』なんかも、こっちじゃ妖精みたい」
「『ザシキワラシ』?」
「棲みついている家に、繁栄をもたらしてくれる不思議な存在。昔話とかによく出てくるの」
「家妖精のブラウニーみたいね」
「ブラウニー?」

 今度はあたしが問い掛ける番だった。
 少しばかり首を傾げて聞き返すと、彼女は微笑んで答えてくれた。

「大人しい性格の妖精で、信じる子供の前にしか姿を現さないと言われていてね。否定する大人の前には絶対出てこないらしいわ。自分が気に入った家に棲み付いて、家族を護るの。家から家族が引っ越してしまうと、大抵一緒についていってしまうんですって」
「それって『家』妖精って言いにくくない?」
「『家族』妖精の方が合ってるかもしれないわね」

 二人揃って少し苦笑して。
 何杯目かの紅茶を飲み干した。

「あなたは、妖精の輪<フェアリー・テイル>を見つけられるかもしれないわね」
「……どうして?」
「そういう存在の事を、頭から否定してないもの」
「じゃなきゃ、研究対象に幻想文学を選んでないと思うな。小さい頃から、不思議な存在ってどこか心惹かれていたし」

 差し湯してもらったポットから紅茶をカップに注いで、砂糖とミルクを入れてゆっくりとかき混ぜる。
 お茶うけとして買ったクッキーが、そろそろなくなりそうだった。

「今はどんな話に心惹かれるの?」
「んー……さっきも出てきた、精霊の恋物語かな。結ばれないってわかっているのに、どうして人間を好きになれるんだろうって。大抵のお話は……人魚とか水の精霊とか、そっちから人間を好きになるじゃない。そのためにたくさん無理をしたりして。だから、どうしてかなって……」

 ぽつりぽつりと話すあたしを、彼女は優しい眼差しで見ていた。
 カップを両手で包みながら、あたしはその紺碧の目を見つめ返した。
 冬の、冴えた湖のような深い色の目を。

「人間には、寿命があるわよね」
「うん。昔に比べたら今はずっと長生きできるけど、それでも寿命は絶対ある」
「精霊や妖精は、寿命がないと言われているわ。それゆえに感情が希薄なのだ、とも言う人もいるわね」
「……それって、少し矛盾してない?」

 彼女の言葉を聞いて、あたしはまた首を傾げた。

「感情が希薄なら、好きって感情が芽生えにくいと思う」
「あら。私は希薄だからこそ、芽生えてしまった好きという感情に制御ができないんだと思うわ。それこそ、すべてをなげうってもいいと思ってしまうほどに」
「あー……そっか。そういう風だったら納得いく。視野狭窄っぽく、一途に一直線になっちゃうのもわかる気がする」

 ゆるゆるとミルクティーに口をつける。
 なんだか不思議な感じだった。
 初対面なのに、すごく打ち解けて話せる。
 彼女の笑顔に、どこかほっとする。

「でも、読んだ話はたいてい悲恋で終わってるのはなんでだろう。人魚姫は真珠の涙を残して海の泡となってしまうし、水の妖精は消えてしまったんだっけ?」
「『水妖記』の事を言っているなら、相手を殺してしまうけれど? 確か『あの人を涙で殺しました』という台詞があったはず」
「あ、そうだったっけ……」
「でも裏切られたり結ばれなかったりすると、存在そのものが消えてしまう精霊の話は多いわね」
「……じゃあ」

 ずっと持っていた疑問。  いろいろ調べていたけれど、納得のいく答えが見つからなかった問い。
 自然と口をついていた。

「それじゃあ、幸せになれた精霊たちはどうなるの?」
「簡単な事よ」

 彼女は軽くウィンクしてみせ、言葉を紡いだ。

「魂と寿命を得て、人間になるの。今も昔も、変わらない理よ」
「そっか……人間に。……って、今も昔もって!?」

 幸せそうに微笑んだ彼女の手。
 右手にはカレッジリング。
 左手にはマリッジリング。
 木洩れ日をうけて、眩しそうに輝いていた。




















   End.


あとがき

少しばかり久し振りに、お題バトルしてきました〜
メンツが4人集まるまでに紆余曲折あったのは内緒です(脱兎)
テーマは「精霊」、お題は「踊り」「透明」「涙」「消滅」
構想は書きながらで、仕上げるまでだいたい1時間とちょっと。
またまた時間オーバーです……3分だか4分くらい(涙)
ここ最近、制限時間オーバーが多い気がするなぁ。
ほんの数分でもオーバーしないように頑張りたいものです。
珍しく、現代ファンタジー。
珍しく、ほのぼの。
珍しく、幸恋(?)
私にとっての珍しい三段重ねでお送りしてみました。
会話のゆったり感と、ちょっとした描写での時間の経過。
この辺りを気に入っていただけたようです。
登場した二人とも名前出してないんですが、これはちょっとした理由がありまして。
名前を知らなくても打ち解けて話せるという事は実際あるので、そんな雰囲気を出したかったのです。
基本路線、ほのぼのなお話ですからっ。
王道的なファンタジーに向くテーマとお題だったのに、なぜか現代になりました。
それが書き上がった今でも謎です。

※12/9追記
壁紙差し替えました。
話の内容的に、やっぱりタイル舗装された道よりも樹などの自然が欲しくて。
ついでに文字色も変えようかと思ったんですが……
そうなるとタイトルプレートも作り直しなので、そこはそのままで。
本当は落ち着いたダークグリーンにしたかったなぁ、とこっそり告白しときます。

同一お題参加者様
神秋昌史さん
空也さん
JINROさん


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