少女は歌う。
 想いを届けるために。

 青年は奏でる。
 願いを見届けるために。

 少女は舞う。
 彼方の存在へ奉じるために。

 青年は詠う。
 彼方の存在の安寧のために。

 二人の声。
 二人の手。
 そこから紡がれるものは……







「これからどこへ向かうの?」
「今日は空の神への奉納だよ。だから、丘の上の神殿だね」
「たまにはお休みほしいな」
「休み、かい?」

 少し拗ねたような言葉を洩らす少女に、青年は表情をほころばせた。
 調弦を済ませた少し大きめの竪琴を皮袋にしまいながら、やんわりと言葉を続ける。

「望まれるという事は幸いだよ。君の声と舞いを待ち望んでいる人は多いんだ」
「歌うのも、踊るのも好きよ。でも……」
「でも?」
「あと何度、竪琴を弾いたら……」

 僅かに表情を曇らせる少女。
 青年はそれ以上言わせないように、しなやかな指先を少女の唇にあてがった。
 はっとしたように見上げるが、言葉がそれ以上出てこない。
 いや、出せないのだ。

「それは言わない約束だよ」
「でも、だって……!」
「今日は聞き分けが悪いね、レティシア?」

 甘やかでいて、涼しげな青年の声。
 少女は自分の名を呼ばれ、思わず恨みがましく青年を見上げた。
 言い聞かせるように名前を呼ばれると、自分が逆らっているのが悪いように思えてきてしまう。

「悪くもなりたくなる。だって、あたしはストラスと一緒にいたいから」

 しゃん、とレティシアの腕飾りの鈴が小さく響く。

「いくら神様に愛された技量だからって……」
「――レティシア」

 竪琴をしまい終えた青年……ストラスの静かな声。
 びくり、と震える肩。
 レティシアの細い身体を、ストラスはそっと抱き寄せた。
 包み込むように、優しく抱き締めた。

「レティシア……いい子だから」
「いい子でなくたっていい……神様に愛されなくったっていい……」
「ダメだよ、そんな事を言っては……」
「いやだよ……一緒にいたいの。離れたくないのに……!」

 幾度朝を向かえ、幾度夜を過ごし。
 レティシアは空の神の巫女姫として、ストラスは風の神の神楽官として。
 それぞれの神殿へと迎え入れられる事が決まっていた。
 それぞれの神が宣託として下し、逃れる事のできない神命となった。
 その期限は、あと千の夜。
 千と一の朝が巡ってきた時、二人の手は離れてしまう。
 響きあう声音と旋律は、別れを迎えてしまう。

「あと幾度の夜と、数えたくない……神様に愛されなくてもいい。わたしには、ストラスだけなのに……」
「私にだって、レティシアだけだよ。でもね、神命は覆せない」
「……意地悪よ、神様って……」

 つ、と頬を伝う涙。
 ずっと泣きたくないと思っていたレティシアだったが、今日は堪えられなかった。
 感情が吐露される。
 涙と共に。
 吐き出して楽になりたいと願うように。

「どちらが欠けたって、わたしたちはダメなのに……歌も、旋律も、舞いも、そして心と魂も……」

 ストラスは涙を軽く拭ってやると、耳元でそっと囁いた。
 他の誰に聞かせる事もない、優しさに満ちた声。

「欠ける事はない。空と風は、いつどこにいたって私とレティシアを繋いでくれる。距離は、心と魂を分かつ事はできないよ」
「ストラス……」
「千の夜を数えるよりも、その時が来るまでは……今、この時は……」







 空と風に愛された。
 互いを愛した。
 舞い歌う想いの少女。
 詠い爪弾く願いの青年。

 千の夜と千と一の朝が、巡る。




















   End.


あとがき

はい、またまた眠れぬ夜のお題バトルです。
ここ最近よくやってます(苦笑)
テーマは「うた」、お題は「カラオケ」「響きあう」「旋律」「涙」
構想は書きながらで、仕上げるまでだいたい50分くらい。
短いと時間内に終わる事ができますね。
……で。
お題の割にはファンタジーちっくで申し訳ないです。
現代物書こうとしたけれど、構想が追いつかずに一度書いたものを破棄しました。
お題の1つ「カラオケ」は「伴奏のあるうたなら可」となっていたのでそちらの意味で使用。
なんだかとことん現代物が書けません。
おかしいな……(汗)
テキストファイルでの交換会だったんですが、行間の使い方について一言いただきました。
HTMLじゃないのに効果的だそうです。
まさかテキスト状態でそう言われるとは思っておらず、びっくり。
毎回のバトル作品は行間もほぼそのままに掲載しています。
雰囲気をつかんでいただけたら幸いです。
ちなみに、女の子につけた「レティシア」という名前。
私にとって特別で、とても好きな響きの名前です。
いつかまた、どこかで同じ名前の女の子が出てくるかもしれません。

同一お題参加者様
久能コウキさん
JINROさん
無我夢中さん


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