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静かなものだった。
夜の帳が降りたこの町……森の中のアーフェンは、宵の口となるとも静寂に支配される。
流れ流れて一人旅でアーフェンに辿り着いたあたしは、取った宿の部屋で蒸留酒の瓶を傾けた。
琥珀色の液体が、杯を満たしていく。
それと同時に少し強い酒気の匂いが、つん、と鼻をつく。
嫌いじゃない香り……けれど今夜は、なんだか嫌いな気持ちがこみあげる。
暗闇を灯すようなランプの火が、瓶を淡く照らし出している。
柔らかなオレンジ色の光。
抱え込んだ気持ちとは、なんだか裏腹な感じだと我ながら思う。
あたしは、杯を手にすると中身をぐいっと呷った。
「なによ……クラウスのばかたれ……」
感情の独白でしかない呟きは、口に出してみるととても切なかった。
精霊使いのクラウスと初めて出会ったのは、もう2年くらい前だろうか。
いい加減一人での冒険と旅にうんざりしていた剣士のあたしリーゼは、港町ダルシオでごろつきに絡まれていた彼を助けた。
魔導師の使い魔じゃないけど、白い小柄な梟を連れたあたしの名前とその出で立ちはそこそこ売れているようで。
さして荒事にもならずに追い返せた。
「ありがとう……ございます」
栗色の髪からのぞく翡翠色の双眸が、とても綺麗だった。
細身で優しげな風貌をしていたクラウス。
男勝りなあたしとは、なんだか正反対だった。
あたしなんて髪も目も夜の闇色……行く国によっては不吉な色だとか言われた。
――でもね。
クラウスの一言がすごく耳に残っている。
「夜の女神に助けられたかと思いました」
なりゆきで助けてしまったけれど、それが縁で二人でコンビを組む事になって。
いろんな国へ、いろんな場所へいった。
冒険者なんてヤクザな商売やっている以上、生命の危険に晒された事は一度や二度じゃない。
けれど、その度に二人で危機を乗り切ってきたものだ。
季節がいくつか巡った頃、再び訪れたダルシオでクラウスはこう切り出した。
「リーゼさん……僕、一度故郷に帰ろうと思います」
「故郷に……? 随分と急な話だけど、どうしたの?」
訝しげなあたしに、彼はゆっくりと言葉を吐き出した。
「両親が倒れたと、風の精霊が報せを持ってきたのです……やはり心配で」
クラウスはそれっきり、目を伏せてしまって表情を曇らせた。
そんな顔されたら、あたしの気持ちはすぐに決まってしまった。
「……行っておいでよ」
「え?」
「だから、行っておいでって言ってるの。何度も言わせないでよ」
「リーゼさん……」
ようやく、クラウスが視線をあげる。
頬杖をついていたようなあたしと目が合う。
「ありがとうございます、本当に……」
「連絡用に、あの子……ツィスカを連れていって。きっと役に立つから。あたしとクライスの場所には、どんなに離れていたって戻ってこれる子だし」
そう言って、あたしは頬杖を解いて左腕を伸ばした。
宿り木に止まっていた白い梟のツィスカが翼をはためかせる。
「わかりました。リーゼさんと僕とを、つないでくれる翼ですね」
「きっと……きっとよ。連絡してよ」
「わかりました。落ち着いたら、必ず」
その翌日。
クラウスはツィスカを伴って旅立った……
ダルシオでの別れから、何度季節が巡っただろう。
あたしはまた瓶から杯に酒を注ぐ。
ほんの少し火照った身体は、自分の感情にも正直だった。
やっと自覚したとも言う。
あたしは、クラウスに惹かれていたのだ。
穏やかで心優しいあの精霊使いに。
離れてみて初めてわかった、この気持ち。
けれど、信じて待つしかなかった。
必ず連絡する、と言っていた彼の言葉を。
「ガラじゃないって思うのに……でも、連絡くらいほしいよ。どれだけ待たせるのよ……」
杯に手を伸ばした時、何かが聞こえた。
こつこつ……
窓を小さく叩くよな音と、微かな羽音。
あたしはためらいもなく、窓と鎧戸を開け放った。
「…………!」
室内にすべりこんでくる、少し冷たい夜気。
青白く輝く満月を背に、窓辺に佇んでいたのは間違いなくクラウスへ託した梟のツィスカだった。
見ればところどころ怪我をしていて、何本かの羽根も抜け落ちている。
胸に何か重いものが、のしかかった気がした。
「ツィスカ……クラウスは……」
指先が震えるのを必死に堪え、あたしは問いかけながら足にはめられた書簡入れに触れる。
かちり、と音を立てて開いたそれからは、小さな羊皮紙が出てきた。
深く息を吸って、それから開く……それは手紙だった。
『親愛なるリーゼさんへ
この手紙は、無事あなたの元へと届いたでしょうか。
ツィスカさんが届ける頃、僕はもうこの世界にはいないでしょう。
僕の家は小さな村の長の家系でした。
その地位を狙う親族の者が両親を姦計に陥れ、故郷に戻った僕までもを標的にしました。
僕もむざむざやられるつもりはなかったのですが……罠にはまってしまいました。
もう僕は、長くは生きていられない。
心配なのは、心残りなのは、リーゼさんの事です。
必ず、と約束したのに……
僕の想いも伝えていないのに……
僕は、心からあなたの幸せを願っています。
だから、どうか……』
手紙は、そこで切れていた。
ところどころかすれてはいたけれど、確かにクラウスの字だった。
「あたしだって、願っていたよ……クラウス。あなたの幸せ……」
頬を伝った涙は、ツィスカと月だけが見ていた。
End.
あとがき
突如始まった、深夜のお題バトルに参戦した時の作品です。
テーマは「夜」、お題は「ランプ」「訪問者」「月」「梟」
構想は書きながらで、仕上げるまでだいたい1時間ちょっと。
少し時間をオーバーしてしまいました……3分ばかり。
久し振りに書いたファンタジーで、久し振りに書いた恋愛物で。
やっぱり悲恋物になっちゃいました(苦笑)
悲恋ゆえにJINROさんをいぢめる結果となったのは、まあご愛嬌という事で(いいのか)
リーゼは思っていたより動かしやすい子でした。
感情がストレートな分、素直に動いてくれるというかなんというか。
こうして読み返してみると、クラウスの視点から書いても面白いかなーと思いました。
リーゼのやさぐれっぷりが意外と好評でした(笑)
掲載にあたり、タイトルのみ変更しました。
元タイトルは「翼の果ての想い」でした。
同一お題参加者様
月葵さん
JINROさん
無我夢中さん
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心理描写が嫌い
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恋愛関係はもう…
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戦闘シーンはもう…
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