第五章 狩人たち
―Hunters―
しゃら……
しゃらん……
なにかが響き合うような音がした。
それは小さな金属が触れ合うような。
水晶の欠片が触れ合うような。
さながら謳いさざめく音の水流であった。
なにかの合図のようなその音を聞き、男の身体にしなだれかかるように身を寄せていた女がはっとしたような表情で顔を上げる。
男は瞑目したまま動かない。
すべてを気配で感じ取っているかのように。
「あの、人間の女が動き始めたようだな」
紅い眼を開いた男はゆっくりと呟きを洩らし、漆黒のたゆたう虚空へと指を滑らせた。
「Get Eyes Reach At Settled Plase
( 我、彼方の地を見渡す目を得たり )
GRASP
( グラスプ )」
ウィザードたちの使うブラックワードを男は唱えた。
それは遠くの物事を見知る事のできる、千里眼の魔術だった。
目標はあの女――自分たちに深手を負わせ、炎のような熱い眼差しの持ち主たる女、紫城。
紫城が一人の人物と話している場所へと、男は意識だけを飛ばす。
自分があたかもその場所にいるかのような視覚を得る事ができるのだが、自分自身はその場所に干渉できない。
しばらくすると、男は目を見張った。
紫城と親しげに話している人物へと、その視線は向けられる。
やがて男の表情が変わった。
驚愕のものから、獲物を追い詰めるハンターのような、狂気の笑み。
「ほう……あの娘……」
微かに、小さく言う。
しかしその声には歓喜ではなく狂気とも思える悦びが確かに含まれていた。
「ようやく巡り会えたか……我らが最後の獲物よ」
男の言葉を聞き、女もまた一瞬驚きの表情を見せた。
呼吸をするように凪いだ感情を戻し、妖艶でいて狡猾そうな顔へと変貌していた。
「長かった……あの男をこの手にかけてから、人間共の言う六年。この時をどれほど待ち侘びた事か!」
女は高らかに声を上げた。
手をぐっと力を込めて握り締める。
まるで、手の中にあるモノを力任せに潰してしまうかのようだった。
「やっとだわ。やっと……あの血筋を完全に滅ぼす事ができる」
女の笑いは哄笑にも似ていた。
最後の時を賭けた戦いの幕は、もうすでに上がり始めていた。
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