断章 太陽の涙 月の雫
―Tears of the sun...Dripping of the moon...―
真炎の姫君―Princess of truth flame―
あの時、何かが弾け飛んだ。
炎が生まれるのがわかった。
哀しみに満たされるのがわかった。
ただ、女の哄笑と母の最期の悲鳴だけが、耳に残っていた。
六年前、私は家族を失った。
父、母、そして双子の妹。
それから一年も経たないうちに、親族をも失った。
天涯孤独、という身になった。
私は生きる気力を失い、死んでしまう事すら考えた。
けれど、すべてを失ったまま朽ち果てていく事はできなかった。
すべては妖魔が仕組んだ事なのか。
私の内に眠る古の血を呼び覚まさせたのは、まぎれもなく妖魔だった。
私の目の前で、両親を手にかけた。
鮮血が飛び散る。
腕の中で消えていく妹の温もり。
悲鳴と哄笑。
妖魔は、殺人を楽しんでいた。
悦楽を得るための手段のように。
その時だった。
私の心の内の枷が砕かれたのは。
今まで感じた事のない衝動。
『復讐スルノダ』
『殺シテシマウノダ』
『オ前ノ心ノママニ』
『引キ裂イテシマウノダ』
『オ前ノ血ト力ヲ解放シテシマウノダ』
『牙ヲ剥クノダ』
『己ノ欲望ノママニ』
『許シテヤル事ナド、ナイ!』
古から連なる妖魔の血が、私に囁きかけた。
けれど私は、それを押さえ込んだ。
人としての道を外れたくなかったから。
私の思いが、炎を生んだ。
妖魔を灼き尽くす業火となってうねりを上げた。
私は戦うための力を手に入れた。
私には家族がいない。
けれど、いずれは一人ではなくなるのだろうか。
未来はまだ、わからない。
一条颯姫 ――焔法師
魔獣の姫君―Princess of a devil beast―
それは、長い長い暗闇だった。
全身を灼けつくような痛みがおおう。
目には何も映らない。
ただ、女の哄笑と母の最期の悲鳴だけが、耳に残っていた。
私は、六年前に死んだ。
少なくとも、日本の役所の戸籍上の扱いではそうなっているだろう。
けれど私は生きている。
名前を偽る事なく。
人と違う事といったら、自分の身体に流れる血筋くらいなものだろうか。
その血筋によって、人にはない能力を得たのも事実だが。
古から連なる血を私から引き出したのは、人ならざる者。
人に仇を為す、妖魔と呼ばれる者。
その妖魔が私を助け、生きていくための術を教え、古の血を呼び覚まさせた。
幼かった……まだ十六だった私に、魔術を教えた。
魔獣と盟約を結んだ。
私の血の多くは、人ならざる者たちの血。
母は、妖魔。
父は、祖先から妖魔の血を濃く受け継いだ半妖魔純血種。
おそらくは、通常の妖魔純血種よりも妖魔の血を濃く継いでいるだろう。
人として生きるには過酷なほどに。
けれどそれは、今となっては私には関係のないこと。
今は人間界にいる私を育てたのは、間違いなく妖魔界。
私は人に仇為す妖魔の立場にいる女。
人と敵対する立場。
私の獲物はまだ見つからない。
私が完全な妖魔となるために必要な魂と血が見つからない。
同じ時に同じ母から生まれ、血と力を分け合った私の片割れ。
二つに裂かれた魂を得た時。
双子の姉を自らの手にかけた時。
私は新たなる力を受け、完全なる妖魔へと生まれ変わる。
一条弥姫 ――魔獣使い
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